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講演会 Lecture
講演会

九州大学特別主幹教授就任記念 中村 哲 特別講演会を開催

2014.05.30


平成26年5月30日(金)
九州大学特別主幹教授就任記念 中村 哲 特別講演会

平成26年5月30日(金),伊都キャンパスの椎木講堂において,「九州大学特別主幹教授就任記念 中村 哲 特別講演会」を開催しました。
本講演会は,パキスタン・アフガニスタンで地元住民のための国際協力・国際貢献活動を行うペシャワール会の現地代表である中村哲氏が,本年3月に九州大学特別主幹教授に就任したことを記念して,本学高等研究院の主催により開催したものです。
講演に先立ち,巌佐高等研究院長から開会の挨拶があった後,有川総長から中村氏へ特別主幹教授委嘱状の授与が行われ,有川総長は挨拶で「本学医学部の卒業生でもあり,パキスタン・アフガニスタンにおける国際協力活動で活躍されている中村哲氏の特別主幹教授就任を非常に誇りに思う」と述べました。
続いて,中村特別主幹教授から「アフガニスタンで真に必要とされること-異文化の中での国際貢献30年」と題した講演が行われ,「人間と自然の関係を大きな視点で見つめ直し,皆さんの今後の生活や生き方に役立てていただきたい」とメッセージが送られました。
中村特別主幹教授の講演の後,本学学生が企画した「ライブトークセッション」が行われ,農学部3年 高崎竜太朗さんの進行により,会場から寄せられた質問をもとに中村特別主幹教授と学生登壇者の経済学部2年 橋本凌真さん,21世紀プログラム3年 宇野真菜美さんの間で活発な議論が行われました。
本学教職員や学生,一般市民を含む約550名の参加者は,中村特別主幹教授のこれまでの活動や経験に基づいた説得力のある話に聞き入り,会場からは時折大きな拍手が沸き起こるなど,講演会は盛況のうちに幕を閉じました。





中村特別主幹教授への委嘱状授与の様子


講演を行う中村特別主幹教授


学生企画によるライブトークセッションの様子



講演概要

1994 年パキスタン・ペシャワールでハンセン病診療を開始。1983 年に結成されたペシャワール会 はその活動を日本側で全面的に支えている。

ハンセン病診療を柱として、基地病院の他パキスタン・アフガニスタンに跨り、多い時には 10 カ所の 診療所を開設し活動してきた。しかし外国軍の診療地域への侵攻や「反テロ戦争」による治安悪化 により私達の診療活動は妨げられ、現在機能しているのは診療所1ヵ所のみ。更に 2000 年に顕在 化した大旱魃により砂漠化がすすみ、診療所があっても水がない状況で村人の生存そのものが不 可能な事態まで追いつめられた。

飢えと渇きは薬では治せない。私達は 1600 本の井戸を掘り、2003 年からは農業用水路の建設を 始めた。この 25.5 キロの用水路によって復旧した田畑は 3000ha。およそ 15 万人の生存を確保する ことができた。工事には連日 500 人程の作業員が従事し、11 年間で延べ 100 万人以上の雇用が発 生した。難民か軍閥や外国軍の傭兵になるしかない人々を雇用することで地域の治安安定に寄与 したのである。総工費は約 15 億円、全て会員の会費と支援者の寄付による。

用水路事業は、主に「蛇籠工」や「柳枝工」という江戸期に完成した日本の伝統工法を参考とし た。絶えず維持・改修を必要とする用水路は、コンクリート三面掩蔽水路だと現地の人々にとって、 技術的・財政的に困難を伴う。生まれついて石の扱いに長けているアフガン人にとっては、蛇籠で あればその修復・保全は難しいことではない。これに柳枝工を加えると更に強い水路になる。

年々進行する気候変動は洪水と渇水の極端な同居となり、アフガニスタンの従来の方式では取 水が困難となっていた。これの解決に最大の貢献をしたのが日本の伝統的治水技術で今後同地 では画期的な農村復興の可能性がある。

私達は用水路を完工し、生存の基盤を確保して難民たちの帰農を促進している。イスラム教徒 である農民達の精神の拠り所であるモスクとマドラサも建設し、更に用水路の最終地点であるガン ベリ砂漠を開墾して「自立定着村」を建設している。ここには用水路の治水技術を習得した作業員 と家族が入植し、農業をやりつつ用水路の修復・保全を継続して行く予定である。

こうして私達はアフガニスタンの一地域ではあるが、その復興支援モデルを提示できたのではな いかと考えている。