【研究成果】分子ドリフトを観察し星誕生に迫る~前恒星コアにある2分子の速度差を初めて観察し、磁場とガスのデカップリングによる初期星形成の過程を解明~(Doris Arzoumanian 准教授)
ポイント
- 太陽のような星はガスと塵の高密度な塊である前恒星コアの崩壊によって形成されます。観測によると、コアには強い磁場が存在していることが示唆されていますが、星形成過程における磁場の役割は依然として明確にされていません。
- 本研究では前恒星コアに存在する2種類の分子を観測し、速度差を検出することができました。その速度差は両極性拡散という現象で説明可能であることを確認しました。この結果は、両極性拡散は前恒星コアの磁場を弱めることで星形成において重要な役割を果たしていることを示唆しています。
- 星形成前のコアにおける物理的・化学的条件を理解することで、惑星と生命を形成する物質がどのように組み立てられていくのかを、より詳しく解明できました。
概要
私たちの太陽のような星は、「フィラメント」と呼ばれる分子雲内の細長い高密度構造の中に存在する「前恒星コア」(ガスと塵の高密度な塊)の崩壊によって形成されます。このフィラメントには強い磁場が存在していますが、星形成過程における磁場の役割は依然として明確にされていません。イオンは磁場からの力を感じるため磁力線と結合(カップリング)していますが、部分的に電離したプラズマ中に存在する中性粒子は磁場から力を感じません。前恒星コアのような高密度環境では電離度が低いため、磁場と中性粒子は分離(デカップリング)して運動します。そのため、重力よってコアの中心に向かって落下していく中性粒子はイオンと異なる振る舞いを示し、異なる速度構造を持つと予測されます。しかし、この予想される速度差(ドリフト速度)はこれまで観測的には十分に明確に検出されていません。
本研究では九州大学高等研究院稲盛フロンティアプログラムのドリス アルズマニアン准教授の研究グループと国立天文台、マックス・プランク地球外物理学研究所、鹿児島大学、九州産業大学、ミリ波電波天文学研究所、ヨーロッパ南天天文台と共同研究を行いました。スペイン南部にある口径30メートルの単一鏡型電波望遠鏡を用いて、地球から最も近い星形成領域の一つであるおうし座分子雲に位置する典型的な前恒星コアL1544に向けて2種類の分子、重水素化ジアゼンニリウムイオン(N₂D⁺)と中性分子重水素化アンモニア(NH₂D)の放射を観測しました。
この2分子は前恒星コア内部の高密度領域をトレースする理想的な指標分子であり、N₂D⁺とNH₂Dの速度マップを比較した結果、コア内において平均で 0.05 km/s の速度差が見つかりました。私たちはこの速度差を両極性拡散の証拠として解釈しました。両極性拡散は前恒星コアの磁気を弱めることができ、星形成に必要な重力崩壊を引き起こすもしくは早めることができます。本成果で両極性拡散を確認できたことにより、初期星形成を引き起こすために必要なメカニズムを解明しました。
本結果は、初めて重力崩壊直前の前恒星コア内部のN₂D⁺とNH₂Dのドリフトの速度検出に成功しました。この成果は、コア内部でのイオン・中性粒子のデカップリングを調べるだけでなく、前恒星コア段階におけるダスト粒子の成長が、コアの力学的進化および原始星への崩壊過程を調整する重要な役割を果たすことを示しました。
本研究成果は、2026年7月10日に学術誌「Astronomy & Astrophysics」に掲載されました。
DOI:10.1051/0004-6361/202658871
[プロフィール]
Doris Arzoumanian
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