【研究成果】土の中に残された6.4万年前のエランドの痕跡-古代土壌プロテオミクスが明らかにした初期ホモ・サピエンスの技術的・象徴的行動-(蔦谷 匠 准教授)
ポイント
- 赤色顔料のオーカーは初期のホモ・サピエンスにとって重要な象徴的意味を持つ素材でしたが、その使用の実態には不明点も多く残されています。
- 本研究では、南アフリカの6.4万年前の遺跡を対象に、オーカーが大量に広がる層の土壌に含まれる古代タンパク質を分析しました。その結果、アフリカ最大のウシ科動物の一種であるエランドの体組織が、オーカーと共に用いられていたことがわかりました。
- 古代土壌タンパク質の分析が、遺跡に残された目に見えない生物の痕跡を調べられる新しいアプローチであることを示しました。
概要
ベルゲン大学のザラ・ギギ博士とサイモン・アーミテージ教授、九州大学高等研究院の蔦谷匠准教授、コペンハーゲン大学のエンリコ・カッペリーニ教授などの国際研究チームは、過去のタンパク質を分析する技術を用いて、約6.4万年前の南アフリカにおいて、どちらも象徴的な意味をもつ素材と動物の体組織が、初期のホモ・サピエンスによって共に用いられていたことを明らかにしました。
赤色顔料の一種であるオーカー (ベンガラ) は、数万年前の初期のヒト (ホモ・サピエンス) にとって象徴的な意味をもつ素材でした。南アフリカの遺跡には、オーカーが大量にばらまかれたような層が出土することがありますが、それらがどのように形成されたのかは不明でした。本研究では、そうしたオーカーの広がる層やその周辺層の土壌 (約6.4万年前) に含まれる古代タンパク質を分析しました。その結果、アフリカ最大のウシ科動物の一種であるエランドのコラーゲンが検出されました。オーカーの広がる層は、エランドの体組織がオーカーと混ぜ合わされて塗料として用いられたか、オーカーの粉末でなめしたエランドの革が遺跡で使用された痕であると考えられます。エランドは後の時代のアフリカ南部の狩猟採集民の信仰や儀礼において重要な役割をもつ動物であり、それが同じく象徴的な意味をもつオーカーと共に用いられていたのは興味深い結果です。また、本研究は、過去の土壌に含まれるタンパク質を網羅的に調べる古代土壌プロテオミクスが、過去の技術、文化、人間行動の目に見えない痕跡を調べられる新しいアプローチであることも示しました。
本研究成果は英国の学術雑誌「Proceedings of the Royal Society B」に2026年10月21日(水)(日本時間)に掲載されました。
[プロフィール]
蔦谷 匠
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